教室では、須賀くんと中江くんの一件があってから、なぜかチラチラ視線を感じるようになった。


「莉奈」
「なに?」


貸してあった数学のノートを返しに来た真奈が、小声で話し始める。


「男子が、莉奈のことかわいいって話してたよ」

「えー、まさかぁ。真奈の間違いでしょ?」

「ううん。髪切って顔がよく見えるようになって、美人だって気づいたって」


信じられないような耳打ちに目が点になる。

ののしられた経験はいくらでもあるけれど、〝美人〟なんて言葉とは無縁だと思っていたからだ。

そもそも、こげこげだし。

真奈が離れていくと「チビ」と後ろから中江くんに呼ばれた。

ほら、こういう扱いでしょ?


「なに?」
「調子のんな」


真奈の声が聞こえていたのか。


「わかってるよ」


せっかくいい気分だったのに、いちいちつっこまなくていいから。

私はすぐに前を向き、次の授業の準備を始めた。