彼はニッと笑いながら私をじっと見つめる。


「顔?」


不思議なことを言う彼を見上げて首をかしげると、ふんと鼻で笑われた。


「鏡、見てみたら?」
「……うん」


彼は、グラウンドの片隅にあるトイレの方角を指さした。


ボールを運んだあとトイレで鏡を確認すると、右頬が砂で茶色く染まっている。


「なにこれ。最悪」


あぁ、さっき汚れたボールを拭いていたとき、無意識に汗を拭ったからだ。


「うわ、池田先輩も見たかな……」


先輩は打者のほうにいたため近くまで行かなかったけど、見られたかもしれない。
盛大にへこむ。

私は蛇口をひねり、生ぬるい水で顔をジャブジャブ洗った。


旭日高校の野球部は、三年生が抜けた現在、選手三十七名と私たちマネージャーが三人。

試合の遠征の翌日以外は基本毎日練習で、一丸となって頑張っている。


そのうち一年生のマネージャーは私だけ。