「私は、お兄様が大好きですわ」
優しくて、頼りがいがあって、賢い。
どんなことがあっても、クロエを嫌わず守ろうとしてくれる。
許容範囲が広く、クロエがどんなに辛辣な言葉を口にしても、たしなめることはあっても許してくれた。
クロエは絶対的にケネスを信頼している。
すぐに、ケネスが中庭を駆けてきて、クロエをかばうように背中に隠す。
「これはコンラッド様。自領にお帰りにならなくていいのですか」
「来た早々帰そうとするな。アイザック兄上から聞いてないか? ひと月ほど滞在して、発掘調査のための人材を調達する予定なのだ」
「そうですか。では学術院に声をかけておきましょう。休暇期間になれば学生が多く参加するでしょうし」
胸元から手帳を取り出し、メモしていく。
そんな姿も素敵だと、クロエは目を輝かせながら見つめた。
一通り話し終えても立ち去る様子のないケネスに、コンラッドはげんなりとした様子だ。
「ああ。……あの、ケネス。俺はクロエ嬢と話がしたいんだが」
「あいにくですが、クロエはそろそろ屋敷に戻します。結婚前の令嬢ですので、独身男性とふたりきりにさせるわけには参りませんから」
「では求婚者ならばどうだ」
そう言うと、コンラッドはケネスの手を押さえ、背中に隠れているクロエを切なげに見つめた。
「過去に君にした失礼は謝る。だから今の俺を見てはもらえないだろうか。領民を知り、彼らに尽くしつつ、自領の利益を確保するため、これからも尽力することを誓う。そのために、君にも力になってほしい。許してもらえるならば、俺はイートン伯爵に申込に行くつもりだ」
クロエは困り、目を伏せた。
結婚させたい両親は、もしかしたらクロエが望まぬ相手だとしても了承してしまうかもしれない。
考えあぐねて困り果てたクロエに、救いの手を出してくれたのはやはりケネスだった。
「申し訳ありませんが、一度でも妹を怯えさせた相手に、嫁がせる気はありません。両親も俺も、クロエの幸せを願っています。イートン伯爵家の発展よりも、大事なことです」
「お兄様……」
だからケネスが好きなのだ、と思う。
相手が誰であろうと、彼は怯んだりしない。
「……分かった」
しおれたのはコンラッドの方だ。未練の残るようなまなざしを残し、中庭から立ち去った。



