一方、城の庭園にあるティールームでは、クロエの執務の休憩時間を利用して、お茶会が行われていた。
参加者は、ロザリンド王妃と、クロエ・マクラウド公爵夫人、そして菓子職人のクリスである。

「やるわねぇ、クリス。お兄様を口説き落とすなんて、常人には無理よ」

クロエが言うと、クリスは真っ赤になる。

「ど、同情かもしれないですよ。ケネス様はお優しいですから」

「あら。お兄様は女性関係ははっきりしているわよ。今までお父様がたくさんの令嬢と引き合わせたけれど、ひとつとしてうまくいかなかったのだもの」

「そうですねぇ。誰にも心を許さない感じはありますよね」

ロザリーは王妃になってもあまり変わらない。のんびりとした口調に、柔らかい表情。周りをも和やかにさせる雰囲気はそのままだ。

「そのお兄様が結婚すると言ったのだから、クリスには違う何かがあったのではないの? ねぇ、教えて」

「そんなのはないと思いますよ。私が勝手に追いかけているだけですもん」

「そうかしら。私もそうだったけど、結婚する相手って、ほかの人とは決定的に違うのよ」

クロエはじろりと見つめてくるけれど、クリスには本当に分からないのだ。

駄目もとの告白が意外にも受け入れられてから、ケネスは、それまでのような子ども扱いをやめ、クリスを女性として扱うようになった。
三日と空けずに会いに来て、エスコートしていろいろなところに連れ出してくれる。
仕事のある日は、ただお茶を飲んでいくだけの日もあるが、顔を見せに来てくれることがうれしかった。
最近店には、ケネスから贈られた花が所狭しと並んでいる。