先に七歳の長男が飛びついてきて、悔しそうに顔を歪めながらマーティが追ってくる。
バイロンは両腕にふたりの息子を抱き上げると、「おまえたちが呼びに来るなんて、一体誰だい?」と尋ねる。
「内緒で来たんですって。お忍びです」
得意げにルーサーが言うと、「おしのびです」とマーティが拙い口調で繰り返す。
「お忍びねぇ。……アイザックかな」
バイロンの予想は的中する。執事に連れられて入ってきたのは、今や国王陛下となったアイザックだ。
「おやおや、国王陛下が護衛も連れずどうしたんだい」
揶揄するのはケネスだ。
「クロエ殿から、屋敷にケネスが来ていると聞いたから、ちょっと気になって出てきたんだ。散歩だよ」
「散歩というには遠すぎないか。全く、今日は私は休みなのだがな。まあいい。アイザックにもお茶を出してやってくれ」
執事が請け負い、バイロンは三人掛けのソファの端に寄った。そこへアイザックが座り、途端にくつろぎだす。
「ああ。この屋敷は落ち着きますね。俺も離宮でも作ろうかな。城だとどうしても出入りする貴族の目が気になるんですよね。……あ! それより、ケネスの結婚の話で盛り上がっていたのでしょう。俺も混ぜてください」
「おまえは相手をよく知っているんだろう?」
「ええ。知っているからこそびっくりですよ。下手をすると親子のような関係だったのに」
「うるさいよ、アイザック。君に話すことは特にないよ」
王城ではない気やすさで、ケネスも今日は敬語を使わなかった。男たちのティータイムは、思いのほか盛り上がり、王の不在に気づいた側近が寄こした伝令に止められるまで続いた。



