「クロエ嬢」

「呆れましたわ。私。バイロン様はもっと思慮深いお方だと思っていたのに」

にっこり笑って返されて、バイロンは笑い出しそうになる。

「嫌いになったか?」

「いいえ。弱いところもあるのだと知って、ますます放っておけなくなりました」

そうして、クロエはバイロンの腰に手を回した。

「愛しています。あなたが愛してくださるなら、どんな障害でも越えていけると信じています」

「……どうやら一度死んだおかげで、私はとてつもない大きな宝石を手に入れたようだ」

愛おし気に髪を撫でていた手が、頬に触れる。

クロエはずっと、自分を女として扱う男の人が怖かった。
だけどこの手は、少しも怖くない。むしろ、もっともっと触ってほしいくらい。

バイロンが体を屈めると、クロエは軽くつま先立ちをする。
どちらからともなく寄り添って触れた唇は、最初は軽く、次に深く、ふたりの間にある距離を消していった。

すっかりふたりの世界に入った影を見ていた見張りのひとりが、「バイロン様もご結婚かな」とつぶやき、別の見張りが「ああ、羨ましいな」と嘆いた。