「違う。もうずっと前から、私は君を愛している。だが、応えてはならないと思っていたんだ。私とでは不幸になると決まっているから」
「不幸?」
「そうだ。私の体内にはまだ毒が残っている。結婚したとして、子を望めるかもわからないし、仮にできたとしてその子が正常である保証はない」
バイロンの声が少し震えていた。
いつも冷静で、落ち着いた思考の持ち主であるバイロンが、そんな考えに至る思考の流れが読めなくて、クロエはあきれてしまう。
「そんなことに悩んでいたんですの?」
「そんなこととは何だ」
「だって。……そんなの、どんな夫婦だって同じじゃないですか。それに、仮に障害のある子が生まれたとして、私がその子を愛さないとでも思うのですか? 子がいなければ幸せにはなれないのですか? バイロン様こそ、私を見くびっているのではありません?」
クロエは、バイロンが口を挟む暇もないくらいの勢いで続ける。
だって、愛していると言ってくれた。その言葉が、クロエの体中を満たしてくれるようだった。
彼の悩むすべてのことが、他愛のないことに思えてくる。
バイロンが今後、王子のままでいるとするなら、王位継承問題を起こさないためにも、子供はいない方がいいのだから好都合ではないか。
イートン伯爵家にはケネスがいるのだし、王家にはアイザックがいるのだ。クロエとバイロンの間に子ができなかったとしても問題はないだろう。
それにもし障害がある子が生まれたとしても、全力で守り抜く気持ち位、クロエは持っているのだ。



