連れてこられたのは物見台だ。
見張りの兵士はいるが、彼らは基本持ち場を動かないので、遠巻きにしか見てこない。

「バイロン様?」

息を切らせ、汗をにじませたバイロンは珍しい。
けれど、それが妙に男らしさを感じさせ、クロエの心臓をうるさくさせる。

「君に、謝らなければいけないことがある。告白を聞こえていないふりをした」

突然に、そんなことを言われ、クロエは自分の顔が赤くなるのが分かった。

「はあ? 今更なんです? 返事をしたくないのなら、蒸し返さなくてもいいじゃないですか」

「したくないのではない。したいから蒸し返しているのだ」

「わざわざ断られるのなんて嫌ですよ」

拒絶するように軽く振り上げたクロエの手を、バイロンは右手で受け止めた。
そしてその手を引っ張り、クロエを引き寄せ、腕に閉じ込めた。

訳が分からない。
告白してからというもの、ぎこちなく距離を置かれていたのに、急に積極的になりすぎだ。
彼のにおいに包まれながら、クロエは混乱しすぎて思考を放棄したくなってきた。

「君のことを考えていた。ずっと、……もう一年以上になる」

この一年、バイロンはいい主人ではあったが、それ以上の感情など、クロエは向けられた覚えがない。
クロエは信じられず、腕の中で首を横に振る。

「信じないのか」

「信じられません。バイロン様にとって、私はただの部下でしょう?」

淡々としたクロエの返事に、バイロンは抱きしめる腕の力を強めた。