バイロンはじっとコンラッドを見つめ、一度ため息をつく。

「おまえもおかしなことを言うね。これだけ美しい令嬢だ。女性として見ない男はいないだろう。だが、私は仕事に私情は挟まない。クロエ嬢を補佐官にしたのは、彼女が示した政策が有用だったからだ。今後は女性にも仕事を担ってほしいと思っているし、そのためのプロパガンダとしての役割も期待している。そういう意味で大切な存在だと言っておく」

「要は仕事上でだけ、彼女が必要ということでしょう? では、彼女に俺が求婚しても構わないですね?」

挑むように言うコンラッドに、バイロンはあきれたように首を振る。

「言っただろう。私は彼女のこれからの仕事に期待している。おまえに、グリゼリン領に連れていかれては困るのだ」

「ですが、彼女は二十歳です。もうとっくに適齢期だ。伯爵夫人だって、それを望んでいるはずです。……クロエ嬢」

急にこちらを向かれ、クロエは思わずじりじりと後ずさった。
コンラッドは立ち上がり、クロエとの距離を詰めてくる。
その瞳は真剣だ。クロエはそのまま数歩後ろに下がったが、コンラッドは容赦なく彼女を壁際に追い込んでいく。

「聞いていただろう。これからイートン伯爵のところに行く」

「困ります」

「今結婚しなければ困るのは君だ。行き遅れと言われ、社交界で後ろ指を刺されるのだぞ? 君の心が変わるのを待つつもりだったが、もう待てない。君のご両親だって……」

「やめろ、コンラッド」

バイロンがコンラッドの肩を押しのけたので、クロエの視界が広がる。

「離せよ、兄上」

「結婚したい女性を怯えさせるのがお前のやり方か。だとすればクロエ嬢は任せられない」

「兄上の許可がなぜいるんだ!」

「言い争いはやめてください!」