コンラッドは今度はクロエに詰め寄ってきた。
腕を掴まれ、クロエは一瞬体をびくつかせる。バイロンが、素早くコンラッドの腕を押さえたので、すぐに離してもらえたが、掴まれたところは痛みが残った。

「もういい。やめろ、コンラッド。彼女が今までどんな仕事をしてきたのかも知らずに、今の言い方は失礼だ」

「兄上……」

「おまえだって知っているだろう。仮にコネで補佐官になったとしても、周りから認められるには実力が無ければ無理だ。クロエ嬢は王城に勤めるすべての人間から認められている。おまえが口を出す話ではないよ」

コンラッドの奥歯がギリ、と鳴る。なにかを考え込んでいるような空気だ。
今はどうだか知らないが、昔の彼は思い詰めると暴走するところがあった。クロエはヒヤヒヤしながら、彼らを見つめていた。

「では、逆に言えば、兄上はクロエ嬢を女性としては見ておられないのですね」

低く、くぐもったような声で、コンラッドは確認するように言う。
思わぬ発言に、クロエは驚き、思わずふたりを凝視した。
鼓動が乱れてきたのが分かる。そのくらい動揺している自分に驚いた。

(どうして私、こんなにドキドキしているのかしら)

バイロンは今やクロエの主人だ。部下として有能であると思ってもらえるかは大事だが、女として見られる必要はない。
事実、これまでバイロンはクロエに性的な意味で迫ってくることはなかったし、男性への怯えを知っているからか、普通の側近よりも距離を開けて話していてくれた。

なのにクロエはバイロンの口もとばかり見てしまう。なんと答えるのか、それを聞いて、自分がどう感じるのか。
不思議なほどそればかりが気になった。