「クロエ嬢にお茶を入れさせるとは何事ですか」
「他の補佐官だって、執務室に客がくればそのくらいのことはする。これはクロエ嬢の仕事だ。口を出すな」
「……っ」
コンラッドは、この一年、領地で発見された遺跡の発掘作業の監督に忙しかった。領地に人を呼び込む起爆剤になるかもしれないのだから、しっかり自分の目で見極めたかったのだ。
大方の作業が終わり、報告するために訪れたところで、クロエが他の補佐官と同じような、詰襟の制服を着こんでいるのを見て、目をむいて執務室へ飛び込んできたのだ。
「なぜ、クロエ嬢が兄上の下で働くことになったのですか」
「当初、女性の社会進出に理解があるのが、私かアイザックだけだったからだな。アイザックのところにはケネスがいる。兄妹で同じ主に仕えるのもなんだから、私が引き取っただけだ」
「んなっ。であれば俺が……」
「クロエ嬢を遠いグリゼリン領までやれるわけがないだろう。それに、……クロエ嬢は非常に能力値が高い。多方面から寄こされる煩雑な要望をまとめるのも上手だ。今となっては彼女がいないと仕事に支障が出るんだ。辞めさせる気も、譲る気もない」
バイロンにはっきり言われ、コンラッドは一度肩を落とす。
「クロエ嬢、君はいいのか。伯爵令嬢ともあろうものが、こんな仕事など」
「補佐官は、王子殿下の手助けをする誇り高い仕事ですよ、コンラッド様」
笑顔でクロエにそう言われ、コンラッドはバツが悪くなる。仕事をけなしたいわけではないが、コンラッドにはどうしても納得がいかなかった。
「だが……君ももう二十歳だろう。結婚の話だって……」
「結婚はいいんです。そればかりが女の幸せではないでしょう」
「だが……!」



