嘘、それは事実とは相反するものを言葉に固めたもの。

私達人間という生き物は自分を守るため、若しくは他者を守り抜くためにありもしないその嘘を重ねては、それをうちに秘め生活し続ける。

それが悪い行いなのかどうかはその人の価値観で左右されるものであって、嘘の全てが悪であると固められる必要はない、と私は思う。

しかしながらそれもまた私個人の意見であって、これに正解を見出すことは誰にも出来やしないことなのだ。


「悪いが俺はこの後大事な予定が入っているんだ。じゃあ、後は宜しく頼んだ」

「……はい」


ようやく片付きそうなデスクの上に一冊の分厚いファイルを雑に置いて、颯爽と退勤していく上司の背中を見つめながらバレないようにため息を零した。

大事な予定、そう言えばやりたくもない仕事をこちらに押し付けることができるための口実に過ぎない。

私の残業の有無などあの上司には関係ないことだと割り切られているようで、私はロボットのように返事を返すことしか出来ずにいる。

残業をしすぎている今月は、流石にもう帰らなければならないというのにそれすらも『大丈夫、自分なら片付けられる』と嘘を自分に言い聞かせて飲み込んでいる。

上司が私に嘘を付くように、私も自分自身に嘘を吐き並べてまるであやつり人形のようにコントロールするしか今の私には方法がないのだ。


「はあ……やらなきゃ」


止まっていたパソコンのキーボードを打つ手に集中し直し、私は黙々と入力作業を続ける。