「どうしてこんなことに……?」

目の前にある高級ホテルを見上げ、思わずそんな言葉が漏れた。


私、藤崎鈴奈と氷室秀吉さんの関係を説明するのは少し難しい。

実家が隣同士だけれど、幼なじみという言葉には当てはまらない気がする。
現在二十三歳と三十歳で年齢が離れすぎているのもひとつの理由かもしれない。

でも、一番大きな理由は、きちんと知り合った時期が遅いからだろう。
昔馴染み、という感じではないのは確かだった。

顔を合わせれば挨拶くらいは交わすという程度の関係だった私と氷室さんがきちんと話したのは、私が小学校五年生の頃。高校生の氷室さん相手に、無邪気に懐けるような年齢はとっくにすぎていた。

だから、私はその頃からずっと氷室さんには敬語で接しているのだけれど、だからといってふたりの間に踏み込めない距離がある……というわけでもない。

関係を表す言葉で近いのは、兄妹だとか従兄妹だとかそのへんかもしれない。少なくとも、ただのお隣さんという関係以上の時間を、私と氷室さんは過ごして、共有してきた。

それは、小学校五年生の頃から始まり、十三年が経った今でも続いている。

歳が離れているせいで、思春期特有の気まずい空気からお互い疎遠になるということもなく、付き合いはずっと平行線。
家族未満、親戚以上くらいの結構近いライン……いや、もしかしたら、家族側に少し足を突っ込んでいるかもしれない。

血が繋がっているわけでも性格が似ているわけでもないのにここまで付き合いが続いているのは、思い返してみるたびに少し不思議ではあるけれど、紛れもない事実だった。

そんな氷室さんから数日前『鈴、ちょっと頼みがあるんだけど』と言われ、少しの嫌な予感はしていた。