「い、イヤよ」
「どうして?」
「そんな必要ないわ」
「必要です」
「交合うだけでいいと言ったでしょう。嘘も慰めもいらないの。私が欲しいのは、交合ったという事実だけ、結果だけが残ればいいのよ」

 オレの思いも、オレとの想い出もいらないと拒絶するのか。

「目を閉じて」
「嫌だと言ったわ」
「結果が欲しいのでしょう? だったら、目を閉じて。こういう順番でするものだ」

 契約が終わったらオレは捨てられる。わかっているけれど、なにも無かったことになんてできない。
 貰った名前を失くしてしまっても、きっと忘れるなんてできない。

 自分では欲しがらないくせに、他人には当たり前のように与えてしまう。不器用なこの人を。

 イザベラは覚悟を決めたように、ギュッと目を閉じた。唇を噛みしめて、どう考えたってキスする覚悟なんかできていなくて。

 欲しがっているのは自分だけだと、まざまざと見せつけられて悲しくなる。