「ここがお嬢様の私室だ。お前の部屋はこの上の三階に用意した」
オレに用意された部屋は、立派な客室で驚いた。バスやトイレまでついている。
普通はじめにあてがわれる部屋は、良くても使用人と同じ屋根裏部屋で、集団生活だ。
まあ、だんだん時間がたてば主人の部屋に入り浸りになるのが常だけれど。
「良いのでしょうか」
「お嬢様の命令だ」
命令なら従う。
「明日には仕立て屋が来る。他に欲しいものがあるなら言え。用意させる」
それだけ言って、セバスチャンは出ていった。
深い緑の壁紙には精巧に描かれた金の蔦の柄。重そうなカーテンはえんじ色。洗い立てのベッドのリネン。
テーブルには本が何冊か。一冊は聖書。よく見かける花の表紙は、有名な詩集だと聞いたことがある。もう一冊は見たことのない本。文字の読めないオレにはよくわからない。
飾られた小さな絵。小さな花瓶。大きな鏡は金色の縁取りが華やかだ。銀細工の凝った置き時計。テーブルの上の小鉢にはチョコレートが入っている。



