「よくわからないけど、その小説の中で私は悪役の令嬢ってこと?」

「そう。リンネは王妃様を騙して取り入って、王太子……レオ様の婚約者の座を手に入れるの」

 騙したことはないと思うけどな。どちらかと言うと、婚約に関してはこっちが騙されているような気がするのだけど。

「小説のリンネはレオ様に執着しててね。彼が小さな時からどんな令嬢が近寄ろうとしても邪魔してくるんだよ。私は意地悪されるの嫌だから、リンネには近づかないようにしてたんだよね」

 ああだから、いつも逃げ腰だったのか。そうでなければ、もうちょっと早く今の感激を分かち合うことができたのに、惜しかった。

「でも、私がレオに執着してるっていうか、その……」

 レオが、女よけに私を傍に置きたがるんだけどな。……とは、言えない。女嫌いを隠すのは王命だもの。うっかり口を滑らしそうになって、慌てて口を噤んだ。

「分かってる。レオ様にかけられた呪いのことでしょ?」

「えっ。なんで知ってるの」

「だーかーらー。ここは小説の世界なんだって。私はラストまで読んだもん。呪いをかけられた原因も、最後に呪いが解けることも知ってる」

「解けるの?」

「ちょ、リンネ。唾かかってる、汚い!」

「あ、ごめん」

 興奮しすぎて近づきすぎてしまった。彼女の服を離して、コホンと咳ばらいをする。
 彼女は、あきれたように私を見てから、ゆっくりと言い含めるように話だした。

「解けるよ。小説では私が解くの。腕にある呪文は、毎日レオ様の血を吸い込んで進行して、胸に魔法陣を描くの。魔法陣が完成するのが卒業式。発動すると悪魔が呼び出され、レオ様は殺されてしまうの」