へなへなと座り込み、ローレンの手をギュッと握る。

「良かったぁ。ずっと心細かったんだよ。こんなこと起きてるの私だけと思って。琉菜がいてくれるなら、安心だぁ」

「しっ、私はもう琉菜じゃないよ。リンネは混乱しなくていいよね。まさか同じ名前の悪役令嬢に転生するなんて」

「そう、その悪役令嬢ってなに?」

 前世での言葉だというのは理解しているけれど、この状況でその言葉が使われることがよくわからない。
 すると、ローレンはきょとんとした顔で私を見つめ、しばらく考えた後、思いついたように手を打った。

「もしかして、リンネってば気づいてない? ここ、【情念のサクリファイス】の世界だよ」

「情念……?」

 何とも厨二病満載な名前に頬を引くつかせると、ローレンは得意げに胸を張った。

「ほら、あの日トラックにぶつかる直前に話していた小説の。いやー気づいたときは震えたよ。まさか私が主人公のローレンになってるなんて」

「は? 物語に転生するっておかしくない? 作りものじゃん」

「ちっ、ちっ、ちっ。物語は生きてるんだよ。それが証明されたんだよ、凄くない?」

 たしかに凄いとは思うけど、私には理解できない。

 物語って最初と最後が決まってるじゃない。生きているっていうか、決められた筋書きを演じている劇みたいなものじゃないのかな。
 でも私、今普通に意思を持って暮らしているよ? これ、演技じゃないからね。
 次に起こることも、正しい選択肢も知らないよ? それでも、小説の通りになるの?

 考えていたら頭が熱くなってきた。そろそろパンクしそう。無心になるために走りたいよ。分からないことにいつまでも悩める頭は持っていないのだ。

 だが、ローレンを置いて走り出すわけにいかないので、その場で足踏みすることで何とか堪えた。