小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました

「レオ?」

「あ……、ずいぶん化けたな。見違えた」

「そっちこそ」

 私たちの会話に、侍女さんたちが目を剥いている。

 たしかに紳士が令嬢にいうセリフでもなければ、返答もおかしいかもしれない。でも私達の間じゃ通常運転の会話なのです。気にしないで!

「ん」

 レオは、腕を差し出してきた。

「なに? もう時間?」

「その前に、俺の部屋に行こう。軽食を用意させた。しばらくは挨拶だなんだと食事をとる暇がないからな」

「え! それは駄目。お腹なっちゃう」

「そう言うと思ったからだよ。クロードも待ってる。行くぞ」

「うん。あ、侍女さんたち、ありがとう!」

 ひらひらと手を振って、部屋を出る。そんな私を、レオは怪訝そうに見ていた。

「……侍女に礼などいらないだろう? 仕事だ」

「でも私にはこんなお化粧できないしね。やってもらってうれしいからお礼言っただけだよ。変?」

「変じゃないが。……ていうか、うれしいのか、着飾るの」

「綺麗になったらうれしくない?」

「……運動する方が好きなのかと思っていた」

「そりゃ、運動は好きだけど、女に生まれて、綺麗になれるのうれしくないわけないじゃない」

「……そうか」

 ポリポリと頭を掻きながら、レオが微妙な視線を私に向ける。

 なんだよ。その程度の顔で喜ぶなってこと? そりゃ、レオみたいな美形ならいつでも綺麗って言われるんだろうけどさ。私みたいな平凡な顔は、ちょっと綺麗にしてもらっただけでもテンション上がるんだから!