小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました

 そんな風にきゃわきゃわと楽しそうな侍女さんたちを眺めていたら、時間はあっという間に過ぎた。そして、出来上がった自分の姿を鏡に映し、私はため息を漏らす。

「はー、すごい。お化粧って上手にやればこんな風になるんだー」

 この国の女性は、学生であろうとも、十六歳くらいから社交界デビューし、十八歳くらいまでに結婚相手を見つけるものだ。
 学園を卒業するのと同時に結婚するのが、スタンダードな令嬢人生と言える。

 学園で相手を見つけられれば一番いいが、見つからない場合は、夜会に出席して婿探しをしなければならない。

 実際、夜会への招待状は山のように届いていた。
 私は、昼間レオとランニングして疲れているのと、着飾ること自体にあまり興味が無いことから、招待状は無視し続けていた。本当なら怒られるところだけど、お父様もお母様も、レオの存在があったからか、そこは好きにさせてくれた。

「リンネ様。レオ様がお越しです」

 部屋付きの侍女にそう言われ、私はもう一度鏡の中の自分を見つめる。
 うん。少なくとも今までの人生で一番きれいなはずだ。大丈夫大丈夫。

「入ってもらって」

「はい」

 侍女が扉を開けると同時に、飛び込むようにレオが入ってくる。五人いた侍女が五人とも一瞬見とれて、慌てて頭をさげた。

 私も、一瞬だが見とれてしまった。
 たしかに今日のレオは格好いい。一目で上質な生地で仕立てられたと分かるジュストコールのカフスボタンには王家の紋章が彫られている。ベストもズボンも同素材のものでいわゆる三つ揃えというスタイルだ。

 ずっと一緒にいるからか、最初に出会ったときの〝弱くオドオドした少年〟のイメージが抜けないけれど、すっかり背も伸び、私と一緒に筋トレしているから方もがっちりしているし胸板も厚い。美形で逞しい肉体の持ち主とか、レオでなければときめく要素満載だ。

 私が観察している間、あっちも言葉なくこちらをじっと見ている。