小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました


「あの文字だって、見ようによっては格好いいですよ」

 厨二病的な目で見れば、珍しい特徴でよいのではないか。そうだよ、刺青のある王子なんてそれはそれで個性的ヒーローじゃないか。

「なんなら、上からさらに加工して、新しい文様にしてしまうのはどうです? そうしたら不幸な事件の象徴ではなく、克服の証として捉えられるかもしれません」

 思い付きをそのまま言葉にしたら、王妃様は目を丸くした。

「まあ。リンネさんはおもしろいことを思いつくのね。レオがあなたじゃなきゃダメだというのが分かるわ」

「レオが……?」

 おいおい、いつか解消する間柄で余計なこと言うなよ。レオめー。
 でも、今は余計なことを言うわけにはいかない。せいぜい仲良さそうに見せてやる。

「リンネさん。クロードから、婚約のことを知らない貴族たちが、あなたに嫌がらせをしていると聞きました。だから早めに発表してしまおうと思って。一週間後、お披露目の夜会を開きます。時間が無いからドレスは既成のものを手直しするだけになるけれど、予定を開けておいてね」

「え? いや、お披露目までは……」

「お嫁さんになる人のドレスですもの。こちらで用意するわ。明日、私と一緒に選びましょうね」

 ……そんなこんなで。結構本格的な夜会が行われてしまいそうなことに、ビビっている。

 王妃様から直接相談されたらしいお父様はノリノリだ。

「王妃様は、それはお喜びだぞ」

 ご機嫌で言われたけれど、祝福されればされるほど、いつか解消するときが怖いのですが。
 お父様だって、婚約解消の暁には、どれほど落ち込むんだろうと思うと気が重い。権力に弱くて調子いいところもあるけれど、なんだかんだ私はこのお父様が好きなのだ。

 ああ、安請け合いなんてしなければよかったかなぁ。