「逃げてるの?」

「なっ、なんだよ。まだいたのかよ」

 走って後を追ったらすぐ追いついてしまった。
 少年はぎょっとしたように私を見て、虫でも払うように手を振りかざしたけど、動きが遅いので簡単によけられた。
 紫に光る瞳が、紫水晶を思い起こさせる。とてもきれいだし、珍しい色だ。

「ふむ……」

 さっきから失礼だから、この少年自体にはイラつくけれど、勉強から逃げたい気持ちは分かる。手伝ってあげるのもやぶさかじゃない。

 少年は寝間着のようなひざ下までの長さのTシャツの上にマントを羽織っていた。

「ね。私が囮になってあげる。脱いでその服」

「は? なに……」

「いいから、早く」

 言うが早いか、私は自分のドレスを脱ぎ捨てる。脱ぎ方なんかよくわからなかったが、首のあたりのボタンを開け、後は首をくぐらせて下から抜け出した。

 ちゃんと下着は着ているし、子供に見せたところで……と思っていたのだけど、少年は私を見て真っ赤になっている。

「なっ、おまえっ、なにしてんだよ!」

「ほら早く。男のくせに恥ずかしがってんじゃないわよ」

 襟を掴み、彼のマントを脱がす。そのとき、左の二の腕に十センチくらいの落書きが見えたが、急いでいたので気にしないことにした。子供が体に落書きすることはよくある。

 マントだけだとすぐはだけそうだなと思った私は、無理やりTシャツも奪い取ることにした。

「それも貸しなさいよ。レディの下着が見えちゃうでしょ」

「はぁ? レディ?」