小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました

 王妃様に呼びだされたのはそれから数日後だ。

「一度ゆっくりお会いしたかったの。リンネさん、レオとの婚約、よく心を決めてくれたわね」

 目を潤ませて言われて、さすがに「学園に通う際の女よけです」とは言えなかった。

 王妃様は、政変のときにレオの身に起きたことをとても気にしていて、それ以来自分にさえ心を開いてくれなくなった息子をどう扱っていいのか分からなかったらしい。

 唯一レオが私に触れるという事実があったおかげで、将来への希望を持てたのだと涙ながらに語られた。

 うん。これはなかなかにキツイな。

「もっと早くから婚約者として優遇したかったのに、レオったらあなたの気持ちも考えて欲しい……って。でもようやく了承してもらえてうれしいわ。あなたにとっても、引きこもりの王子の婚約者は気乗りしなかったでしょうに」

 婚約の話は、てっきりレオが思い付きで言い出したのかと思ったけれど、この話を聞くに、王妃様や陛下の間では前からされていた話らしい。

「あの子の腕の文字、リンネさんはご覧になったことある?」

「はい。昔、殿下から見せていただきました」

「そう。それでも婚約を了承してくれたのね。本当にうれしいこと。あれを消したくて、いろいろな施術師を呼びつけたのだけれど、全然消えないの。あれがある限り、ダンカン様の恨みが残っているようで、今も怖くてたまらないわ」

「そうですね」