小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました


「リンネ、お待たせ」

 夫人たちを衛兵に任せたクロードが戻ってくる。

「クロード。助けてくれてありがとう」

「どういたしまして。別に俺が入らなくても、リンネひとりで蹴散らせそうだったけどね」

 その言いっぷりに笑ってしまう。結構毒のある発言をするのだけど、笑顔のせいなのか物腰のせいなのか、人に悪意を与えないところはすごいなと思ってしまう。

「でも、いつまでもこんな風に追い払ってたらいけないよね。レオだって、いつかはお嫁さんもらわなきゃいけないんでしょう? 他に兄弟はいないんだし」

 レオは王太子なのだ。後継ぎが絶対に必要な立場なのだから、いつまでも女嫌いではまずい。

「だからリンネと婚約したんじゃないの? 王妃様がすごくうれしそうに話していたけど」

「でも、あれは学園での女よけでしょう?」

 真実を言ったのに、クロードは変な顔をする。なんか、話の通じない馬鹿な子を見るような痛々しい視線だ。

「リンネはそう思うんだ?」

「うん。でも、学園に行けば嫌でも今よりは女生徒と触れ合うことになるしさ。リハビリにいいと思うんだよ」

「……リンネはそれでいいんだ?」

 問われた意味が分からず、私は小首をかしげる。すると、クロードは一瞬困ったような笑顔を浮かべたが、切り替えたように明るい声を出した。

「いや、なんでもないよ。それより、応接室へ行こうか」

「あ、そうだ。レオが倒れちゃったんだよ。さっきの奥様方に囲まれたらしくて」

「そうだったのか。……もっときつく言えばよかったかな。じゃあ様子を見に行こう」

 私はクロードと一緒に応接室へ行った。レオは自室には戻っておらず、ソファで横になっていた。様子を見ていた従僕が、私達が来たことに気づいてすっと場所を開ける。

「どこに行っていたんだ、リンネ」

 レオはさっきよりずっとスッキリした様子だった。体を起こし、私に隣に座るように言う。

「レオ、夕飯食べられそう?」

「ああ。リンネも一緒なんだろう?」

「もちろん。でも無理はしないでね。食べきれなかったら私が食べてあげる!」

「……おまえ、それ自分が食べたいだけじゃないのか?」

 ツッコミには笑顔で返す。半分くらいは本気だったけど、レオの心配もちゃんとしてるんだからね!