「リンネ、お待たせ」
夫人たちを衛兵に任せたクロードが戻ってくる。
「クロード。助けてくれてありがとう」
「どういたしまして。別に俺が入らなくても、リンネひとりで蹴散らせそうだったけどね」
その言いっぷりに笑ってしまう。結構毒のある発言をするのだけど、笑顔のせいなのか物腰のせいなのか、人に悪意を与えないところはすごいなと思ってしまう。
「でも、いつまでもこんな風に追い払ってたらいけないよね。レオだって、いつかはお嫁さんもらわなきゃいけないんでしょう? 他に兄弟はいないんだし」
レオは王太子なのだ。後継ぎが絶対に必要な立場なのだから、いつまでも女嫌いではまずい。
「だからリンネと婚約したんじゃないの? 王妃様がすごくうれしそうに話していたけど」
「でも、あれは学園での女よけでしょう?」
真実を言ったのに、クロードは変な顔をする。なんか、話の通じない馬鹿な子を見るような痛々しい視線だ。
「リンネはそう思うんだ?」
「うん。でも、学園に行けば嫌でも今よりは女生徒と触れ合うことになるしさ。リハビリにいいと思うんだよ」
「……リンネはそれでいいんだ?」
問われた意味が分からず、私は小首をかしげる。すると、クロードは一瞬困ったような笑顔を浮かべたが、切り替えたように明るい声を出した。
「いや、なんでもないよ。それより、応接室へ行こうか」
「あ、そうだ。レオが倒れちゃったんだよ。さっきの奥様方に囲まれたらしくて」
「そうだったのか。……もっときつく言えばよかったかな。じゃあ様子を見に行こう」
私はクロードと一緒に応接室へ行った。レオは自室には戻っておらず、ソファで横になっていた。様子を見ていた従僕が、私達が来たことに気づいてすっと場所を開ける。
「どこに行っていたんだ、リンネ」
レオはさっきよりずっとスッキリした様子だった。体を起こし、私に隣に座るように言う。
「レオ、夕飯食べられそう?」
「ああ。リンネも一緒なんだろう?」
「もちろん。でも無理はしないでね。食べきれなかったら私が食べてあげる!」
「……おまえ、それ自分が食べたいだけじゃないのか?」
ツッコミには笑顔で返す。半分くらいは本気だったけど、レオの心配もちゃんとしてるんだからね!



