小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました

 従僕が来たタイミングで、彼に任せて一度部屋を出た。レオも介抱されている姿を見られたくはないだろうし。

 手持無沙汰でふらふらしていると、「レオ様? どちらへ行かれました? 今度ぜひうちの娘と……」という声が、何重にも重なって遠くから響いてくる。
 
 ……あれか、レオの体調が悪くなった原因は。

 はしゃぐ声を聞いていると、悪気がないのはわかるし、親として結婚適齢期の王太子に自分の娘を売り込みたいのもわかる。
 
でもせめて単独で話しかけてこればいいと思う。ただでさえレオは女性が駄目なんだから、集団で来られたら、すぐに体調を崩してしまうじゃないか。
 
私は、声をたどってホールに出た。そして見つけた五人ほどの女性の前に、立ちふさがる。

「ごきげんよう、奥様方」

「あら、エバンズ伯爵家のリンネ様ごきげんよう。今ね、レオ様を捜しているのですけど、居場所をご存じありません?」

「レオ様でしたら、調子が悪いとおっしゃって部屋に戻りました。誰かさんたちの化粧の香りが強いからでは?」

「まあっ」

 夫人たちの顔にさっと赤みが差す。そして悔しそうに私を睨んだ。

「リンネ様はお噂通りの方なのですね。不躾で、いつもレオ様を独り占めしているのだと娘から聞きましたわ」

「ひとり占めしているつもりはありません。ただ……」

 レオが平気な女性が私しかいないんだから仕方ないでしょう、と言いたいけれど、そんな事実が知られたら、王太子としての今後がまずい。
 だから言えない。そして今、この集団を遠ざけようと思えば、私が嫉妬で彼女たちを蹴散らしたと思わせるしかない。

「……ご令嬢たちは、自分たちが声をかけられないことを、ひがんでおられるのではなくて?」

「まあっ、ひがむなんて。レオ様は他の女性を知らないから、リンネ様ばかりを大事にするのよ。……そう差し向けてらっしゃるんでしょう? 根回しがお上手ですこと」