小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました

 城に入って、クロードに言われた応接室に向かう途中で、先に帰ったはずのレオがうずくまっているのを見つけた。

「レオ? どうしたの」

「……リンネか」

 はあ、と大きく息をついた彼は、「ちょっとな。大丈夫だ」と顔を隠す。
 どう見ても大丈夫という顔ではない。私は無理やり彼の腕を引っ張った。

「見せて。顔色が悪い。なにがあったの」

「なにもない。ただ、ちょっと母上のお茶会に招かれていた奥方たちと鉢合わせしただけだ」

「……ああ」

 城では女性の情報交換としてお茶会も頻繁に開催される。すでに遠慮のない年齢の女性たちは、レオが戸惑っていようが嫌がっていようが関係なく集団で彼を囲んだのだろう。

「とにかく部屋入って休もう? ほら、捕まって」

「いい。平気だ」

「遠慮しないの。真っ青だよ? ほら」

 肩を貸して彼を支えようとしたけれど、身長差がありすぎて、私では全く支えにならないことに気づいた。悔しくなった私はレオの頭を軽く叩く。

「なにするんだ」

「うるさいな。支えられないんだから根性で立ってよ! ほら、行くよ」

 扉を開けてレオを中に入れると、部屋の中でお茶の準備をしていたメイドたちが慌てて駆け寄ってくる。

「レオは体調が悪いみたいなの。従僕を呼んでくれる? 寝かせてあげてほしいの」

「はい、リンネ様」

 普段から、レオの身の回りの世話は侍女ではなく従僕によって行われている。メイドたちもそれを知っているので、すぐ請け負ってくれた。