小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました


 結局、何度か話しかけてみたけれど、ローレンとは話が弾まないまま終わった。
 もしかしたらすでに他の令嬢からなにか言われているのかもしれない。せっかく友達を作るチャンスかも……と思ったけれど、世の中そんなに甘くないなぁ。

 帰りにもう一度話しかけてみようかなぁと考えていたけれど、その前にレオがやってきた。

「リンネ。終わったなら帰るぞ」

 すでに鞄を担いでいるレオは、いまだに顔色が悪い。ちょっと待ってと言いたかったけれど、背後の女生徒たちの「レオ様だわー!」という色めき立った黄色い声を聞いたら、いつまでもこの場にレオを置いておくわけにいかないことは分かる。

「わ、分かった。帰ろ」

 立ち上がったとき、さっきまでは目をそらし続けていたローレンが、いきなり腕をつかんで私を引っ張ってきた。

「ちょっと待って、どうして」

「へ?」

 美少女に抱き着かれるのは嫌ではない。……が、さっきまであんなに避けていたローレンがどうして私に自分から寄ってくるの?

「あ、あのっ、リンネ様はもしかしてレオ様と……」

 真剣な表情に、答えあぐねていると、脇からレオがあっさりと答えてしまう。

「発表はまだだが、婚約中だ」

 そしてローレンに掴まれている腕とは反対側の腕を力強く引っ張られ、あっという間にローレンから距離が空いてしまった。