「僕は、これは護符に近いものだと思うんだよね。魔術は魔力のある人間が呪文で行うもので、当人しか使えないのだけど、護符は〝魔力のある人間が古代語で記述した呪文〟の札であって、魔力のない人間にも使うことができる。リトルウィック出身の君の伯母上……ジェナ様は魔力を持った人間で、彼女が描いたからこの文字には魔力がこもっている。だから、君に魔力が無くても呪文自体は作用するってことじゃないのかな」

「俺の意思など関係なくってところが恐ろしいな」

「今度、交易商から上級魔導書を入手してもらえる手筈になっているんだ。それが届けば、もっと多くのことが分かると思う。……とりあえず文字に変化があったことだけは、報告しておくね」

「父上にか?」

「王妃様も心配している。それにリンネも」

「……リンネには言うなよ」

 心配して泣かれても困る。リンネは感情豊かですぐ怒ったり泣いたり笑ったりする。笑われるのはいいが、泣かれるのは嫌だ。

「どうしてだい? リンネは君の数少ない理解者だ。全部分かっていてもらった方がいいんじゃないのか?」

「いたずらに心配はさせたくないと言っているんだ」

「あの子なら大丈夫だろう。むしろそれを上回る勢いで君を救ってくれる」

 その言い方が引っかかった。誰にでも愛想はいいが、誰も信用はしていないクロードが見せるリンネへの信頼に、胸がざわつく。

「なにかあったのか、リンネと」

「いや? ……ただ、前から思っていたけれど、おもしろい子だよね。俺が疲れているみたいって心配してくれてさ。なんて言ったと思う? 一緒に走ろうって」

「リンネは走れば誰でも元気になると思ってるんだ。……で、走ったのか?」

「いや? 僕は、運動はあまり得意じゃないしね。気持ちだけ受け取っておいたよ」

「そうか」