「救い出されたとはいえ、レオは以前のようには戻れなかった。信じていた人間に裏切られたのだから、人間が信じられなくなっても仕方がない。救出されたあと、引きこもってしまったのは当然だと言える。それ以来、学園にも戻っていない」
「当時は男の医者も駄目だったんだ。もう誰にも触られたくなかった。……特に女性は伯母上を思い出して気持ちが悪くなる」
レオは私ともクロードとも目を合わせず、壁のあたりをじっと見つめていた。さらわれて怖い目に遭って帰って来たのに、母親にも縋り付けなかったなんてあんまりだ。
「いろいろ試した結果、男で子供だった僕がレオに近づける唯一の人間だった。それで僕は陛下に頼み込まれて、レオの世話を一手に引き受けたんだ」
「それで……」
クロードがレオの世話係になっているのか。
本人も公爵子息という身分があるにもかかわらず、使用人のように細々したところまで面倒を見ているのがずっと不思議だったが、謎が解けた。
でもそんな事情があったのなら、人間嫌いになるのも仕方ない気がする。信じていた伯父に裏切られ、殺戮の場面を見せられて平気でいられる八歳の方が怖い。
気遣うようにレオを見ると、心外だというように唇を尖らせた。
「今は大分よくはなったんだぞ。男相手なら触れるのは問題なくなったし、女性も母上になら触れるようにはなった。それで父上は俺が学園に戻れるようにと考え始めたんだ。手始めに友人をつくらせよう……と、同世代の子供たちを呼び集めたんだ。それがリンネに初めて会った日だな。余計なことを……と思っていたが、リンネと会えたから悪くはない」



