小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました

 一気に険悪な空気を醸し出した私たちを、抑えるのがクロードだ。

「まあまあ、リンネ、落ち着いて。君はすごいんだよ。普通の女の子ならレオが拒否反応を示して話すこともできないのに、君は初対面のときから彼に触われた。レオの体調も崩させずにだ。だから僕は驚いたんだ」

「触ったというか、服を脱がせただけよ」

「いや、それ触るよりハードル高いからね」

「だって……」

 あのときは、逃がしてあげなきゃいけないのかなって必死だったんだよ。子供が大人に追われるなんて正直怖いしさ。

「君の存在が、僕や陛下や王妃様にとっては希望だったんだ。なにせ、レオは王妃様に触られても吐いてしまうくらいだったんだから」

「え? 王妃様も?」

 だって母親だよ? 生まれてからいくらでも触られてきただろうに、そんなことある?
 私が驚いていると、クロードは少し声のトーンを落とした。

「話してもいいよね? レオ。君がそんな風になった経緯」

「ああ」

 レオが面倒くさそうに目を伏せた。
 気乗りしていないんだろうなぁと思えたから、「話しにくいのなら別にいいよ」と言ってみると、クロードが驚いたように目を見開いた。

「気にならない?」

「気にはなるけど、たぶん、ナイーブな話でしょう? そういうのって、赤の他人が聞いてはいけない気がするの」

 私の返答に、クロードは赤茶の瞳を揺らしながら、楽しそうに笑った。
 今の話の流れ、楽しいかな。ここ、笑うところじゃない気がするんだけど。
 クロードはいつもニコニコ笑っていて、怒ったところなんてほとんど見たことがない。とっつきやすくはあるけれど、なにを考えているのか分からないという点ではレオより上な気がする。

「でも僕は君に知っていてほしいな。レオもそうじゃない?」

 クロードは強引に話を続ける。そういえば、私がここに来るようになったのもクロードの采配だった。物腰は柔らかいけれど、案外と強引なところがある人なのだ。