小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました


「ローレン? どこに行っていったんだ?」

 彼女は「お父様だわ」と勢いよく立ち上がると、私には無言で頭を下げ、背を向けて行ってしまう。

「なんだったの、あの子。……まあいいかぁ。お腹空いたし」

 さっさと着替えておやつにしようとうきうきで部屋に戻ると、レオが青くなってかがんでいた。クロードが心配そうにその横についている。

「レオ? どうしたの?」

 呼びかけると、クロードが助けを求める視線を私に向けた。

「ああ、リンネ。君はレオと一緒にいたんだろう? 何があった?」

「なにがって……女の子が話しかけてきたけど、レオったら突き飛ばして逃げちゃったのよ?」

「それか。……治ったわけじゃなかったんだなぁ」

 クロードはため息とともにこぼす。とても気分が悪そうにしたレオが、ぎろりと睨んで絞り出すように続けた。

「前から言ってる。リンネが平気なだけだ」

 私は訳が分からなかったけれど、それよりも顔色の悪いレオが心配で落ち着かない。

「ちょっとソファに横になりなよ、レオ。どうしたの、さっきまで元気だったのに」

 クロードがレオをソファに横たえ、私は近くの床に座り込んで彼を眺めた。

「そんなところに座るな。いいから、おまえは向かいに座って菓子でも食ってろ」

 レオはそう言うけれど、具合の悪そうな人を見ながらお菓子を食べてもおいしくない。
 熱があるわけじゃないのかな、と額を触ってみると、レオは顔を赤くしてそっぽを向いた。

「平気だって」

「でも」

「本当に平気だ。なんか元気になってきた。ほら、起き上がれるから、おまえもここに座って菓子を食べろ」