小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました


「ほら、行くぞ」

「うん」

 レオが先に立ち城にはいろうとすると、「あの」と小さい声で呼び止められる。驚いたことに声をかけてきたのは先ほどの赤毛の令嬢だ。

「レオ王太子様でしょう? 私……」

 レオは彼女を一瞥すると、ふん、とそっぽを向き、無視しようとする。
 おお、ツンの態度だ。
 自分にはされなくなって久しいその態度に見入っていると、突然体がぐらりと傾ぐ。

 赤毛の令嬢が、私を押しのけたのだ。こんな細腕の女の子に押されてよろけるなんて、まだまだ私、体幹が弱いんじゃない?
 私が反省しているうちに、少女はレオに近づいた。そして、レオの腕をギュッと握る。

「今後何が起こっても、絶対に助かりますから。希望を捨てないでくださ……きゃっ」

「俺に触るな!」

 レオは突然彼女を突き飛ばし、逃げるように走っていく。
 これにはさすがに私もびっくりした。いくら、人嫌いだからって、女の子を突き飛ばすのはやりすぎだ。
 少女に同情した私は、彼女を助け起こした。

「あの……大丈夫?」

「ありがとう。……あっ」

「え?」

 驚いたように目を見開き、彼女は私に伸ばした手を引っ込め、気まずそうに視線をさ迷わせている。
 なんだろう。まるで拒絶されたような感じ。私、この子に嫌われるようなこと、してないよね。
 気まずい空気にどうしたらいいか分からなくなって黙っていたら、大人の男性の声が聞こえてきた。