小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました

 いつものように走り終えて、部屋に戻るために正面に向かうと、馬車の乗降場の方から、赤毛の男性が歩いてくるのが見えた。彼の後ろにはたくさんの絹織物を持った使用人と、赤毛の少女がついてきている。

 私は赤毛を見るのが初めてだったので、思わず立ち止まってしまった。

「やあ、レッドラップ子爵。珍しいですな」

 迎えに出てきた様子の金髪の男性が、彼の肩を抱き、織物をひとつ取って眺める。

「これはなかなかの品ですな」

「ええ。新航路を発見しましてね。陛下に献上しようかと。それに、我が娘のこともお伝えしたく」

「こちらがご令嬢ですか?」

「ローレンと申します。八つになります」

 令嬢はドレスの端をつまんで、丁寧に挨拶をする。大人の中に混じって全く物おじしない姿に、凄いなぁと感心してしまう。

「どうした、リンネ」

 うしろからレオに呼びかけられ、はっとして振り向いたと同時にお腹が鳴る。慌てて取り繕ってみたけれど、音はしっかり聞こえたのか、レオが笑い出す直前のような顔をした。もうあきらめて本音を言う。

「……お腹空いた」

「はぁ。おまえは本当に令嬢としてはどうかと思う」

 呆れながらも、レオは「クロード!」と上を向いて呼びかける。しばらくすると、二階の窓からクロードが顔を出した。

「もう戻るから軽食の用意を頼む」

「分かったよ。リンネの好きなクッキーを頼んでおこう」

 クロードは、自身がお砂糖なのではと思うほど甘やかな微笑みで請け負った。
 やった。そういうところが好きだよ、クロード。