小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました

 翌朝学園に行くと、私が昨日の午後にレオと過ごしていたことが広まっていて驚いた。
 まあ、ふたりで庭園やら城の内周やらを駆け回ったのだ。彼女たちの父親が城勤めをしているならば、見ていても不思議はない。

「一体どうしてなんですの? リンネ様」

 私にそう問い詰めてくるのはポーリーナ嬢だ。

「ちょっといろいろあって、その、レオ様の話し相手になるように言われて」

「まあっ、そうなんですのね。けれどリンネ様おひとりでは大変でしょう。どうか私も一緒に連れて行ってくださいな」

 そんなことを言われても困る。私が勝手に王城に連れて行けるわけがないし。

「それは国王様からの許可を取ってくださいな」

「そこをリンネ様から口添えしてほしいのですわ」

 ポーリーナ嬢は胸の前で手を合わせて期待に満ちた目を向けてくるけれど、まだ私だってレオと打ち解けたわけでもないのに、そんなお願いをするのは無理だ。

「無理です。私にそんな権限ないもの」

「まあっ。ひとりだけ王太子様に取り入ろうというの?」

 普段は楚々としたポーリーナの歪んだ顔に、私は驚いた。〝小さくても女は女〟というのを、凛音のときに腐るほど聞いたが、まさしくそれだ。彼女の顔に浮かんでいるのは、嫉妬だった。
 友人だと思っていたけれど、彼女は私を利用したいのかと思ったらふいに、熱が冷めていく。

「ひとりだけというつもりはないですけれど。呼ばれたのが私だけだというなら、そうなのでしょうね」

 暗に、呼ばれないのはあなた自身のせいでしょうと冷たく言うと、ポーリーナ嬢の顔色がさっと変わった。

「な、なによ。リンネ様がそんなに冷たい方だとは思わなかったわ」

 ツン、と澄まして彼女は背を向けた。その日、彼女はそれ以上私に話しかけてくることはなかった。