小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました


「ではリンネも敬語はやめてくれるかい? それなら僕も君に合わせることにしよう」

……なんか、言いくるめられてる気もするな。私の方は身分が低いんだから、普通に敬語使えばいいと思うんだけど。

 不満を込めた眼差しを送ってみたけど、笑顔であっさり跳ね返された。
 レオみたいにツンツンされるよりは話しやすいけど、クロードはクロードで笑顔がポーカーフェイスになっていて、なに考えているか分からないな。

……まあいいか。少しくらい問題があっても、子供のやることだと許してもらえるだろう。

「わかったわ。クロード。……これでいい?」

「いいね。君は期待以上のお嬢さんだ」

 クロードはにっこり笑って私の手を引いた。もう片方の手はレオに差し伸べる。

「さあ、ふたりとも。こんなに汗をかいて。着替えたほうがいいね。風邪をひいてしまう」

「でも着替えなんて……」

 城に住んでいるレオならばともかく、リンネには着替えなどあるはずがない。

「明日からは運動用の服も持ってくるように伯爵に頼んでおこうね。古着でよければ子供用のドレスもあるはずだよ。城の衣裳部屋には膨大な数の服があるから」

 クロードと話しているうちに、いつの間にか部屋の前まで戻ってきていた。クロードに言いつけられたメイドが、私でも着られるようなドレスを見繕ってきてくれる。

 着替えている間にレオは先生からお小言をくらったらしく、戻ってからは私が叱られた。
 ちらりとレオに目をやると、ぷいとそっぽを向かれる。
 うーん。なかなか懐かない猫みたい。

「聞いていますか? リンネ様。今後は絶対に勝手に抜け出したりしないように」

「はーい」

「返事は伸ばさない!」

「はい」

 バツが悪くて先生から視線をそらしたら、またレオと目が合った。さっきはそらしたくせに、また見てるなんて可愛いところもあるね。

「先生、そろそろいいでしょう? 今日のふたりの成果を聞かせてください」

 クロードが保護者よろしくそんなことを言い、その場は何となく収まった。