小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました


「レオ、リンネ嬢! こんなところにいたんですね」

 そのうちに、走ってやって来たのはクロードだ。最初に見た貴族服と違い、動きやすそうな素材のシャツの上に胸当てや小手をつけている。そういえば剣術の練習をすると言っていたっけ。いいなぁ、私もどうせやるならそっちの訓練がしたい。

「先生が困っていましたよ。礼儀作法の時間なのに、散歩すると言って逃げていった、とね」

「……それ、困っているんじゃなくて怒っているんじゃ……」

「そうとも言います。さ、謝らないといけませんよ。先生だって暇じゃないんです。わざわざあなた方のために時間を割いてくださっているんだから」

「頼んでないのに」

 ぼそりとレオが言ったが、クロードに睨まれ、口をつぐむ。

「クロード様。先生には謝るから、これからは運動する時間も作ってくださいな」

「運動? リンネ嬢は女性騎士にでもなりたいのですか?」

「そういうわけじゃないけど、体がなまって仕方ないもの。それに、レオ様も運動したほうがいいと思います。ツンツンする余裕がなくなって、よく話すの」

 私がそう言うと、クロードはまた吹き出した。なんだか笑われてばかりのような気がする。

「それは気づかなかったな。でも……そうですね。さっきもずいぶん打ち解けていましたもんね」

「それ。その、丁寧な言葉もやめて欲しいです。クロード様の方が年上で身分も高いのに、気が引けますもん」

 率直に言うと、クロードは美しい顔を少し傾げてふむ、と言う。