小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました


「……おまえは、変な奴だな」

「そうですか?」

「俺のことが怖くないのか? ……その、見たんだろ?」

 レオが腕をさする。
 なんだ、寒いのかしら……と思いつつ、走った後だから正直暑い。服を脱ぎたいくらい。
 そこではっと思い出す。そういえば、彼の二の腕にはでっかい落書きがあったんだっけ。

「あれは、自分で書いたんです?」

「は?」

「腕になにか書いてありましたよね。消えなくなったんでしょう? 分かります、若気の至りってやつですよね。まあでも、レオ様若いんだし、成長するうちに消えますよ」

 この世界に油性ペンはなかった気がするけれど、きっと消えにくいインクで書いてしまったのだろう。恥ずかしいからみられたくなかったのかな。うふふ、結構可愛いじゃない。

 生温かいまなざしを向けたら、異物を見るような目でレオに見られた。

「……おまえ、馬鹿だろう」

「失礼な! これでも成績は悪くないです」

「頭がいい間抜けというやつだな」

 酷い。そしてあながち間違っていないから否定もできない。
 そしてそれきり、彼は黙ってしまった。

 会話が無いとちょっと気まずい。とはいえ、固く口を結んでしまった彼に無理やり話しかけるのも気まずいし。

……やっぱり男の子とは体で語り合わなきゃダメかな。同じ釜の飯を食うとか、同じ苦労をするとか、そういうことで男子とは友情が生まれた気がする。

「さ、レオ様、ここでトレーニングしましょう」

「は?」

「いいですか、私のやることを真似てくださいね」

 そこから、大会のときのウォーミングアップのようにストレッチを行った。やり方は分かるけど、リンネの体はうまく動いてくれない。それはレオも同じのようで、私達はバランスを崩して座り込んだり、痛い痛いとわめいたりしながら、体を動かしていた。