「遅いですよ、レオ様」
ダッシュをかけてレオ様を抜くと、予想もしていなかったのか目を剥いた。
「ちょ、おまえっ」
「先に行きますよー」
カーブで膨らみすぎないようにスピードを調整し、左足に力を籠め、体を押し出す。
ああ、気持ちいい。走るのはいいな。頭がすっきりして。
もっともっと走っていたいのに、すぐに息が上がってしまうこの体が恨めしい。体幹ももうちょっと鍛えたいな。カーブで体を支える力が弱い。ドレスの重みが加わって、ちょっと体の軸がぶれていた。
やがて、レオが追い付いてきた。
「おまえっ、なぜ俺を置いて行くんだ」
「だって先生から逃げるなら、本気で走らないと」
「そんな汗だくの令嬢、見たことが無いぞ」
「そう、この程度で汗をかいちゃうなんてよくないですよねぇ」
リンネの体力の無さは本当に問題だ。これでは思う存分風を感じることができない。
腕を組んで考えている私は、レオがぎゃあぎゃあ騒いでいる内容など、聞いていなかった。
この思うようにならない体をなんとか鍛えたい。まだリンネは八歳だから、ぶよぶよしたこの足も、すぐに筋肉をつけることができるだろう。
うん、そうしよう。でもひとりで走るとお母様に怒られていまうから。
「レオ様。体力づくりに毎日走りませんか?」
「は?」
「ほら、私もレオ様もまだ若いですし、筋力付けないといけないと思うんですよ」
レオと一緒にやるから、といえばなんでも許可が下りる気がする。
私だって私的な時間をこうしてレオのために使わなければならないのだから、ちょっとくらい私がやりたいことを入れ込んだっていいだろう。



