小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました

 認識を深めつつ、お茶会は続いていく。

「さあ、ではお茶会を盛り上げるために大切なのは会話力です。せっかく同じ年代のお相手に来てもらえたのですから、交互に話題を出して、会話を盛り上げてください」

 なかなかに無茶ぶりな課題が下された。先生が遠くに座り、私たちふたりで会話をさせようとしているらしい。
 いや、いきなりは無理でしょって思うけど、先生の期待のまなざしがつらい。日本人なので、空気読んじゃうんだよ、私は。

「えっと、レオ様は今日何を食べました?」

「……いきなり食い物の話題か?」

「じゃあ何を話せばいいんですか」

「一般的には天気だろう! あたりさわりのないところから行くのが普通だ」

 ご飯だってあたりさわり無いじゃんよ。どうせいいもの食べてるんでしょうに、王子様。
 と思ったが、王子に噛みつくわけにもいかない。ぐっとこらえて、言われたとおりに天気の話を振る。

「じゃあいい天気ですから、この後、お散歩でもしませんか」

「散歩?」

「ええ。先日も思いましたが、庭園のお花がとてもきれいなので」

 令嬢スマイルで言ってやった。どうだ、これで文句ないだろう。

「そうだな……」

 レオは、ちらりと先生に目をやると、突然立ち上がった。

「では、そうしよう」

「あ、レオ様、リンネ様。ダメですよ、今は勉強の時間で……」

「これも社交の勉強だ。ついてこい、リンネ」

 レオは、こちらの足の速さなど計算に入れていないかのように力強く走り出す。
 普通の令嬢なら転んじゃうような速さだけど、甘く見てもらっては困る。たしかに体は出来上がっていないが、小中高と走り続けている私は、ちょっとやそっとのスピードでビビったりしない。