小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました


「リンネ様は、できるものとできないものの差が激しいですね」

 三十分後、私の課題回答を見てテレンス先生はため息をついた。そりゃ、日本の高校生の知識がありますからね。計算なんてお手の物だけど。文化とか国語っぽいものは、もともとリンネが持っている知識しかなく、記憶をたどってもあまり出てこないのでさっぱりだ。

「レオ様は……はい。問題ありませんね」

 どうやらレオは頭の出来はいいらしい。ちょっと負けたような気分になって、ちらりと横目で見ると、勝ち誇った顔をされた。……なんか悔しい!

 続いては休憩……と思いきゃ、行儀作法の時間だった。
 お茶会での作法のお勉強がてら、おやつを食べるらしい。おやつは食べたいけれど、これでは休憩にならない。不満だ。

 まずは先生から注意すべき点が語られる。
 招待されたときはまず、主催者にご挨拶をする。座順が決められているはずなので、勧められるまで椅子には座らない。お茶を飲むときは優雅に音を立てない、などなど。

「リンネ様、小指が立っております」

「う……申し訳ありません」

 いや、普通立つでしょ。なんでレオは立たないのよ。ちらりと見れば、無表情でツンとそっぽを向いている。

「レオ様は笑顔が足りませんね。お茶会で、特にもてなす側になる場合は笑顔が大事です」

「俺は男だ。……お茶会など開催しないのだから心配ない」

「男性にも社交はございますよ。チェスなどの遊戯をしながら、招待客へ気を配らなければなりません」

「……む」

 あ、むくれた。意外と表情は分かりやすい。

 レオは人間嫌いというけれど、わけもなく噛みついてくるタイプではないようだ。これは必要だと納得しているものには愛想はなくても取り組んではいる。
 王子様だもんね。やりたくないからって逃げたりはできないか。