小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました

 ふたりで並んで優しい風を浴びる。人のざわめきが少し遠くに聞こえるのが、まるで秘密基地にいるようで不思議と楽しい。

「髪、落ちてるぞ」

「あ、さっき髪飾りを取られたから」

 レオがほつれた髪を指でつまむ。クルクルと巻き付けては、ぱっと手を離してほどけていくのを楽しんでいるようだ。
 レオは髪触るの、好きなんだな。

「他の奴には見せたくないな。……さっきは驚いたんだぞ、戻ってきたと思ったら男たちに囲まれるし。ライリー殿には攫われるし。脅かすな」

「ごめん。でも、私のせいではないと思う。それに、ローレンの魔法のせいだから、もう大丈夫だよ」

「いや、駄目だろう。べつに魔法なんてかかっていなくても、おまえは綺麗だ。これからもあんなことはたびたび起こるかもしれない」

 それは絶対起きないと断言できるけれど、レオがそう信じているのかと思うと、なんか変な気分だ。彼に綺麗だと言われると、地に足がつかないくらいふわふわとしてしまう。自分が価値のある人間なんだと信じられるような気がする。

 グウゥゥゥゥ。
 そこで、ムードをぶち壊すように、私のお腹が悲鳴を上げる。

 そういえば、開始からずっとバタバタしていたから、全然食べる暇がなかったな……。

 ……さすがに恥ずかしくて、真っ赤になって顔を押さえた。
 これは百年の恋も冷めるやつだ。ムード台無し。ああ、やっぱり私では駄目なのでは……。
 夜会で食べてる暇なんてないって、前回も言われてたんだから、事前になにか口にしておけばよかったよ。

「……そうだな。今日はそんな時間なかった」