小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました

「クロード様、そうはいっても治癒魔法だけじゃ私としても面白味がないんですよ。どうせ覚えるなら、物語にスパイスを与えられる魔法を知ってたほうが楽しいでしょう? ぶっちゃけ、レオ様がリンネにぞっこんすぎて、話が行き詰まっているんですよ。婚約者と言いながら、結婚話も進んでいないし。魅了でもなんでもいいから少しハプニングを起こして、レオ様をもう少し強引にしないと、盛り上がりに欠けます」

「物語の話はしてないよ」

「してるんですよ。言ったでしょう。私のやる気をあげるために、この物語の完成、すなわち、ふたりの結婚が必要なんです!」

 ああ……もう。どうしようもないな。私は一気に脱力してしまった。

ライリー様は、「なるほど」とつぶやくと、冴え冴えとした冷気を漂わせつつ、にっこりと笑った。

「まあ、私の生徒がなかなか手ごわい相手だというのは分かりました。とりあえず、今日はこれ以上余計なことをしないように、声を奪ってしまいましょうか?」

 恐ろしい発言をしたライリー様に、「ひえっ」とローレンが逃げだし、「待ちなよ」とクロードが後を追う。
 それにしてもローレンは足が遅いな。あれではすぐに捕まってしまうだろう。こんな時のために走る訓練をしておくべきなんだよ、ローレン。
 ライリー様はレオに向き直り、頭を下げた。

「まあ、そういう次第です。リンネ様に危害を与える気ではなかったので、お許しいただけますか? 殿下」

「ああ。俺も悪かった」

「では、一応主役ですので、会場に戻らせていただいても?」

「そうだな。先に行ってくれ」

 悠々と、歩いて戻っていくライリー様を見送って、私とレオは顔を見合わせた。

「ベランダで話さないか?」

「うん」

 ガラス扉を開け、ベランダに出れば、隣の中広間からの明かりが差し込んで、視界は悪くなかった。