小説世界に転生したのに、八年たってから気づきました

 仕方なくじっとしていると、「ここか!」という掛け声とともに、レオが部屋に入ってきた。廊下の明かりが差し込んで、私とライリー様もてらされる。

「レオ!」

 私はホッとして叫んでしまった。

「……なにをしている。リンネを離せ。ライリー殿」

 レオの声は怒りに満ちていた。普段、無表情で、感情を荒げることが少ないレオが、ここまで怒った顔を見せるのは珍しいかもしれない。うかつにもドキリとしてしまう。

「これは……殿下」

「彼女は俺の婚約者だ。気軽に触れるな」

 レオの剣幕に、ライリー様は驚いて一瞬離れた。しかし、落ち着かせようと両手をあげたまま、諭すように続けた。

「こちらの方がリンネ様ですが。それは失礼をいたしました。ですが殿下、今の状態の彼女はとても危険です」

「なぜだ?」

「お分かりになりませんか? 魅了の魔法がかかっています」

「魅了」

 レオが私を一度見つめた。そしてまたライリー様に向き直る。

「特に変わったようには見えないが……」

 ライリー様は大きくため息をついた。

「本当ですか? 彼女を見ていると喉の乾くような感じしませんか? 神々しく思えたり、もしくは性的な意味で触りたくなったりとか」

 なにを言うんだ、ライリー様。
 ああでも、さっきのぎらぎらした男の人ってそういうこと?

「それはいつもだ。俺には、特に変わったようには見えない」

 はっきり返したレオに、ライリー様は思い切り脱力する。

「はぁ……。つまり殿下はリンネ嬢にべたぼれなのですね。それで鋼鉄の理性を持っていらっしゃると」

「とにかく彼女を離せ」

「レオ様、落ち着いて聞いてくださいね。彼女には今、魔法がかけられているのですよ。先ほど、彼女の周りに一気に人が集まって来たでしょう。あれは魅了の魔法の効果です。ただ魅了されているだけなら彼女の信望者となるだけですから問題ありませんが、あれだけ強力になると、男性は征服欲にかられるようになります。今の状態が続けば、リンネ嬢が襲われてもおかしくありません。危険ですから、魔法を解かせてください」

「解くってどうするんだ?」

「これでも魔術指南役として呼ばれたのですからね。他の術者がかけた魔法でも、解くくらいはできます」