「リンネ、ちょっとこっちに来て」
「どうしたの? 子爵は?」
「お父様は商談よ。それよりこっち」
「おい、もうすぐ主役が来てしまうぞ?」
エスコート役のレオから無理やり引きはがされ、廊下へと連れ出される。
「どうしたのローレン」
「ちょっとムカつくことがあったの」
「なに?」
「おばさんたちは見る目無いなってことよ。こんなにかわいいのに」
慰めるような目で見られれば、なんとなく理由は思い当たる。
レオと一緒に夜会に出れば、必ず言われるのが「なぜあんな伯爵令嬢が王太子の婚約者なのか」だ。いかにも王子様然としたレオといて、やっぱり私では釣り合いがとれないんだろう。
「……目にもの見せてやるわ」
「なに言ってんの? ローレン」
「んー。ちょっと目をつぶってて」
その後、ローレンは小声でなにか言ったけれど、私には聞き取れなかった。
「なんて言った?」
「んーん。よし、これでいい」
言っている意味が分からなかったが、ローレンはすっきりしたみたいに、それ以上は教えてくれなかった。
会場に戻ると、すでに魔術指南役であるライリー様が入場していて、クロードから紹介されているところだった。珍しい緑色の髪は前髪がトサカのように元気よく飛び出している。丸みのある鼻に、吊り上がった細い目。瞳の色はローレンと似た琥珀色だ。にかっと笑った顔なんかは、チャラそうと言えなくもない。年はクロードと同じくらいかな、二十代前半というところだろう。
レオは国王陛下の脇に場所を移していた。今から隣に駆け寄っていくのは目立ってしまうので、私とローレンは会場の隅でしばらく待つことにした。……んだけど、なんかさっきと違って妙に人の視線を感じる。
「これはリンネ様。……いつもにましてお美しい」
「あら、レオ様の……。お綺麗ねぇ」
男性のみならず女性も、妙に私を見ている。あまつさえ誉め言葉まで飛んでくる。
私はあっという間に人に囲まれてしまった。なんだこれ、おかしい。取って付けたような誉め言葉も気持ち悪いし、今日の主役があそこで挨拶しているのに、私に注目が集まるのは絶対おかしい。



