レオが卒業して半年、私とローレンは残りの学園生活を楽しんでいた……と思っていたのだが。

「ストレスが溜まるんだよ!」

 いきなりの暴言とともにローレンが放り投げたのは、数冊のノート。机の上に広がったそれを、私は重ねて置き直してあげた。

「ローレン、こんなに勉強しているの? 偉いね」

 前世では、赤点でも危機感のなかった琉菜を思い出し、苦笑いを浮かべながら一番上になったノートを開いた私は、褒めたことを後悔した。

「ナニコレ……」

「小説。だってここまで展開が変わったんなら、もう新しい話でしょ。書かねば! 世に出さねば!」

 中に書かれていたのは、私がレオの呪いを解くまでの一部始終だった。しかも、物語風に書いてある。ローレンが知らないはずの子供時代まで書いてあるのが不思議だが、クロードからでも聞きだしたのか、おおむね合っているのが恐ろしい。

「ちょ、待って。そんなこと許可してないよ! 肖像権はどこにいった!」

「ざーんねんでした。この世界で肖像権なんてないよーだ」

「しかも、こんなことしてないし。何この、幼少期の小指の約束って」

「そこはほら、ちょっとは創作もいれないと。良くない? 王子様は幼いころに自分を助けてくれた令嬢に誓うの。大きくなって、強くなって、今度は君を守るよって。……まあ、物理的には助けられ続けてるわけだけどね?」

 両手を絡ませて夢見るように言われたけれど、いや、勝手に過去を捏造しないで欲しい。

「……でも、ローレンってレオのこと好きだったんじゃないの? 私とのラブストーリーなんて書いて楽しいの?」

「それなんだけどさぁ。私が好きなレオ様って、物語の中のレオ様なんだよね。多くは口に出さないけど、ヒロインをずっと一途に思っているところとかさ。そう考えると、今のレオ様はちょっと違うっていうか、リンネに一途なところがむしろ大事な気がしてきたわけ。となれば、楽しみ方が変わってくるでしょ? 私はふたりを見守ることで萌を満たそうと思ったわけですよ」

 どんなわけだ。相変わらずローレンの思考は謎すぎる。