私がレオを救ったという話は、美談となって国中に広まっていた。もちろん、ともに王子を救った聖女として、ローレンの名も伝わっている。彼女は一躍時の人だ。

 レオは、私の体が完治するまで、私を城から出さなかった。自らも学園を休み、代わりに家庭教師を呼んで、学園の授業に遅れないように万全な体制を整えつつ、私の傍から離れない。
 超一流の医師を主治医につけ、食事の介助を自らしてくれるかいがいしさに、国王様は呆れた様子だ。
 王妃様はうれしそうに、日に一度は冷やかしにやってきた。前からなんとなく思っていたけれど、今回の件で確信した。この世界にロマンス小説があれば、この人絶対ハマっている。

 クロードはいつも通りの飄々とした態度で、「ふたりとも、婚約破棄の申し出は、破棄していいんだよね」と雑務処理を引き受けてくれた。

「あの、クロード」

「なんだい、リンネ」

 あれから、変わらずお兄ちゃんのように接してくれるクロードには感謝しかない。あの日の告白は、きっと私を励ますためのものだったのだろう。

「怪我が治ったら、また狩りに行きたい」

「……リンネは相変わらず無謀だね。普通に生活できるようになってしばらく経たないと許可できないな」

「えー!」

「えーじゃないよ。当然でしょう。全く、いつまでたっても子供みたいなんだからなぁ」

 ぽんぽんと頭を軽く叩かれる。呆れられているのにうれしいとはどうしようもないけれど。
 そこで、視線の圧を感じる。レオが、じっとこちらを見ているのだ。

「レオ……なに?」

「いや。おまえたちは仲が良いなと思ってな」

 これは嫉妬だろうか。いやでも、今までもずっとこんな風だったじゃない? 突然態度を変えたりできないからね?

 クロードはくすくす笑いながら、持っていた本で軽くレオの頭を叩く。そんな仕草もお兄ちゃんぽいなぁと思う。