「リンネ」

 レオの声に、力がこもった。
 先ほどまでと違う感じがして顔をあげて見れば、彼は手を伸ばし、私の左手を、励ますように握りしめる。瞳に生気が宿ったように見えるのは気のせいだろうか。

「わかった。生きる」

 突然、はっきり宣言された。
 途端に胸に勇気が生まれてきたような気がして、涙が引っ込んだ。

「なにがなんでも生きる。だからリンネ、頑張ってくれ」

「う、……うん!」

 私は目尻に残った涙を拭いて、もう一度息を吸い込んだ。

 そうだよ。生きるんだ。私も、レオも。
 不思議と、腕の気だるさも手の震えも消えていた。

 何度も恐怖に押しつぶされそうになったけれど、今度は、刺し終えたその先に、生きているレオがいるって信じられる。そうしたら、そこに向かうことが怖くなくなった。

 見本の呪文を確認しながら、針を素早く刺していく。

「リンネ、これで終わりだよ」

「うん」

 クロードに励まされ、最後の一刺しで線を繋いだ。……完成だ。

「できた!」

 私の声に、周りがわっと湧く。

「うん。ちゃんと写せている。間に合ったな」

 クロードが見本の紙と見比べ、太鼓判を押してくれた。
 安堵で息を吐きだした次の瞬間、レオに、痛みに顔をしかめた。

「……っ」

 元の魔法陣の線が伸び、一足遅れて完成する。レオの体に浮かんだ線が、ほわんと青白く光る。けれど、私が刺した呪文は光らない。光っているのは、――元の魔法陣だけだ。