「どうした。泣くな」

「……だって」

「走ってくるか? 元気になるだろう? ……今は、一緒に走ってやれないけど」

「馬鹿、何言っているのよ。自分が大変なときに」

「はは、怒るな。……っ」

 レオが急に顔をしかめ、一度ビクンと体が跳ねた。まるで痛みをこらえているようだと思ったら魔法陣がぼんやり光って、六芒星の書きかけの線が一気に二センチほど伸びる。

「呪いが進行した……?」

 その瞬間を見るのは、初めてだった。

 彼の顔は一気に青ざめ、呼吸もやや粗くなっている。間違いなく、呪いがもたらす症状だろう。

 血を吸って進行するものだとは聞いていたし、たまに痛むとも言っていたけれど、あまりに淡々と語られていたから、そこまで酷い痛みだとは思っていなかった。

 腕の呪文から伸びた線は、まっすぐにのばせば一メートル以上あるはずだ。レオは今までに、一体どれだけの痛みを感じてきたというのだろう。

「レオ、痛い?」

「大……丈夫だ」

 彼の眉間には深いしわが刻まれている。それを見ているだけでも大丈夫なんかじゃないことは分かる。
 涙があふれて止まらない。辛いのはレオの方なのに、泣いちゃいけないのに、止めることができない。

「苦しいならちゃんと苦しいって言って。悲しいなら泣いて。でないとレオの心が壊れちゃうよ」

 ボロボロ涙をこぼしながらそう言ったら、レオは痛みで食いしばっていた口もとをふっと緩め、私の頬を撫でた。