「お父様っ、血って。私を生贄にする気ですか?」

「馬鹿。命に係わる量じゃない。おまえがここに居なければこんな提案をするつもりはなかったが、運よく居たからな」

「そんな……」

「ローレン、お願い」

 私の懇願に、ローレンは困った顔をしながらも応じてくれた。

「分かった。これでレオ様が助かるなら」

「ありがとう! ローレン」

 レットラップ子爵がローレンの指先を切り、インク瓶の中に数滴落として混ぜる。

「いたた。これで大丈夫? お父様」

「さあ、こんなことをやるのはそもそも初めてだからね。うまくいくかは分からないけれど、万全を期したいだろう」

「ありがとうございます。レットラップ子爵」

 私はお礼を言い、クロードに向き直る。
 彼は神妙な顔をして、私に一枚の紙を見せてくれた。

「いいかい、リンネ。こっちの黒字で書かれているのが、レオの胸に刻まれている魔法陣だ。そしてこの赤字の部分を、リンネに書き足してほしい」

 二重の円の外側に、三角の模様と呪文が書かれている。三角の模様は呪文の効果範囲を示しているようで、三方から円を囲むように三つ配置されている、その周囲に呪文を書くのだけれど、呪文部分が結構複雑で、これを正確に刺せというのはなかなか難しい。

「私に……できるかな」

「そこはリンネに頑張ってもらうしかない」

「うん」

 分かっている。レオを守りたい。どうしても生きていてほしいのだ。そのためになら、どんな努力でもする。