「そこでね、あなたの手腕を見込んで頼みがあるんです。エバンズ伯爵もご存知のように、こうやってレオのために同じ年頃の子女を集めても、彼は着替えもせずにこっそり部屋を抜け出してしまうありさまなんですよ。このままでは友人もできず、学園に戻るなど夢のまた夢です。そんなレオに負けずに話せるリンネ嬢のような人は貴重だと思うのですよ。ぜひレオの遊び相手になっていただきたい」

 クロードに両手を握られ、私はビビった。

 遊び相手って……いやいや、逃げ出すってことは遊び相手いらないんでしょ? なんでそんな小学校の先生みたいなこと言うの? ひとりでいたいならひとりでいいじゃん。

「いえ、あの、でも、王子様の気持ちも……」

「お受けしましょう」

 断ろうとした私の声に重ねてきたのはお父様だ。

「我が娘でお役に立つというのならばいかようにも。ええ、お任せくださいませ」

「ちょ、お父様」

 がしっと両肩を掴まれ、近づいてくる父の顔は真剣そのものだ。

「リンネ、これは光栄なことなんだぞ。人間嫌いといわれたレオ様の唯一の友人になれれば、おまえはいずれ王太子妃。我が家はうっはうは……」

「心の声が漏れてますよ。エバンズ伯爵」

「いやあ、冗談ですよ。クロード様」

 クロードのツッコミに、お父様は笑ってごまかしたが、その目には、王族に恩を売れるチャンスを逃すかという欲が浮かんでいる。私のお父様、どうやら欲深な人みたいだよ。

「お父上の許可も出たようですし、よろしくお願いいたします。リンネ嬢」

「え、でも」

「あなたに、レオの将来がかかっているのです」

 美形に懇切丁寧に頼まれれば、私だって嫌とは言えない。

「……分かりました」

 ただ、自分が粗相をしない自信はありませんが。そう付け加えたい気持ちをぐっとこらえた。