だがそれによって、魔術を扱う者たちの待遇はどんどん悪くなった。祈りをささげること、魔術を使うことによって特権階級として優遇されてきた巫女姫は、魔女とささやかれ、命を狙われるようになったのだ。

 巫女姫はこの国に見切りをつけ、魔術を扱うものすべてを引き連れて、国境の森に新しい国を興した。それがリトルウィックだ。その際、巫女姫は魔術に関する一切をハルティーリアには残さなかった。

 勝手に国を興されたことに腹を立て、ハルティーリアはリトルウィック相手に何度か戦を仕掛けたが、そのたびに嵐が襲い、撤退することとなったのだという。

そのうちにリトルウィックは周囲の小さな部族を束ねていき、何度か繰り返される小競り合いの中で国土を増やしていった。

 何度目かの戦争が終結したタイミングで、ハルティーリアとリトルウィックの国交は失われた。二国は隣国でありながらも一切交流の無い国になったのだ。

 ハルティーリアの歴史家は、このふたつの国の確執を封印した。おそらくは、自分たちのしたことを恥じていたのだろう。過去は封印され、二国は最初から交流のない国という顔をしてそれから何百年もの時を過ごした。